第64章 それはまるで慈雨の如く
「お前らを捕縛し、人工降雨船の引渡しをした後アルバーナに戻ろうと時間は十分にある」
「ん?」
あれ、なんか雲行きが怪しい。
スモーカーの腕から生まれた煙が水琴とエースを狙う。
飛びのき距離を取るが、周囲はスモーカーの煙に覆われ視界は瞬く間に奪われた。
「なんで?!今そんな流れだった?!」
「まー唐突だよな。”だから”バイク貰ってくぞ」
「はいっ?!」
「なんつーか、海軍ってのも面倒だよな」
自分のバイク一つ素直に貸せねェってんだから。
エースの呟きに水琴はスモーカーの意図をようやく察する。
煙の向こうから追撃は無い。
「スモーカーさん……」
「ほら、早く行くぞ」
「うん」
スモーカーの愛車”ビローアバイク”は彼の言葉の通り少し離れた所にあった。
乗りこみ操作を確認する。
「ねぇ、運転出来るの?」
「原理はストライカーとそんな変わらねェだろ。いけるいける」
しばらく確認したあとエースがよし、と腕を捲る。
「飛ばすぜ。しっかり掴まってろよ」
エースの炎が動力部へと伝わりバイクは物凄い勢いで発進した。
突如かかるGに水琴は吹き飛ばされないようエースの腰にしっかりとしがみついた。
確かにこれは早い。水琴の砂ぞりだったらここまで速度は出なかっただろう。
先程までこれの持ち主と対峙していた海岸は既にはるか背後に置き去りにされ、何も見えない。
「………」
ありがとうと、告げても彼は受け取らないだろう。
だから水琴は黙って前を向く。
「待ってて、ビビ……」
アルバーナで待つ友達に奇跡を届けるために。