第64章 それはまるで慈雨の如く
「おれたちがついてんだ。死なせるようなことあるかよ」
不意に背後にエースの気配を感じる。
振り向けばやや不機嫌そうな目付きで睨まれた。
「時間が無いって言ってたのはどこのどいつだ」
「あ、ごめんごめん!」
うっかり長話をしすぎた。
まだ戦争は終わっていないのだ。自分たちばかりのんびりする訳にはいかない。
「ということで、私たちは行きます」
「追ってくるなら相手してやるよ。そんな暇あんのか分かんねェけどな」
「もう、煽らないでよエース!」
本当に追ってくるとなったらどうする気だ。
冷や冷やしながらエースの背を押し砂ぞりへと戻る。
「……待て」
背後から呼び止める声にびくりと身を竦ませた。
今から全速力でアルバーナまで戻らないといけないのに、鬼ごっこはゴメンだ。
「……なんでしょう」
「………」
呼び止めたというのに無言を貫くスモーカーに水琴も落ち着かない。
時間のこともあるし、出来ればもう行ってしまいたい。
「__向こうに俺のバイクがある」
ようやくスモーカーの口から発せられた言葉に水琴は聞き間違いかと思わず耳を疑った。
「ガタが来ている砂ぞりと俺のバイクならこっちの方が早い」
「いや、そうかもしれないですけど……」
確かに往路の全力疾走で木製のそりはかなりガタが来ていた。
もしやこれは貸してくれると言ってるのか?と水琴は期待を込めてスモーカーを見る。