第62章 ここにいる意味
「出来るだけすぐに戻るから!」
ビビに別れを告げ水琴とエースは宮殿を出る。
能力を駆使し、二人は数分もしない内に元の門前までやってきていた。
隠していた砂ぞりを引き出して慣れた手つきで乗り込み帆を張る。
「行くよエース!」
「おう!」
帆が大きく膨らみ砂ぞりは軽快に走り出す。
今は一分一秒も惜しい。
水琴は砂ぞりが耐えられる限界の速度で目的地へと向かう。
ナノハナまでの距離は、聞いたところ20キロほど。
水琴の能力で速度を上げた砂ぞりならば、十五分ほどで着くはずだ。
そう、計算上なら。
だからこそ、さらに早くと水琴は速度を上げる。
当たり前の計算で出せる時間など忘れてしまえ。
少しでも早く。
ビビに奇跡を届けるために。
予定よりずっと早く町が見えてくる。
ルフィたちと一番最初に降り立った町であり、エースと再会した町。
ナノハナは巨大船が横たわり混乱の最中にあった。
「__っ」
「水琴。分かってるな」
「分かってる……っ」
手を貸してやりたい欲求を必死に押し殺し、水琴は町に入らず少し離れた浜へ向かう。
港の方は海軍も多くいるようだったが、予想通りこちらの方には人影はなく水琴たちはフードを落とした。
「あれ……」
浜を目指す水琴の目に小さな船が映る。
個人の船だろうかと確認しようとした時、岩の陰から人が現れた。
ゆらりと紫煙が揺れる。
「スモーカーさん……」
「また会ったな」
エースが険しい表情で水琴の前に出る。
「大佐がこんな所で油売ってていいのか?この国の惨状を知らないわけじゃねェだろうに」
「優秀な部下が事に当たってる。てめェに心配される謂れはねェ」
そっちこそどういうつもりでここに来た、とスモーカーもまた厳しい表情を水琴たちに向けた。
「スモーカーさんの仕事の邪魔をするつもりはありません。私たちはただ、雨を降らせに来たんです」
「雨……?」