第62章 ここにいる意味
そう。水琴たちの目的はこの国に雨を取り戻すことだった。
全ての国民が願う奇跡。
クロコダイルにより奪われた雨で、再びこの大地を潤すため。
「雨なぞこの天気で降るはずがねェ。連日のクロコダイルの砂でこの国の空気は渇ききってる」
だからここに来たのか、とスモーカーは水琴を睨む。
「ダンスパウダーを奪いに来たか?」
「ダンスパウダー?」
思わぬ単語に水琴はまさかとスモーカーの背後にある小さな船を見る。
「その船が……」
「これを使うのはたとえ緊急時でも犯罪行為だ。目の前で法を犯すのをみすみす逃しはしねェ」
戦闘態勢に入るスモーカーを迎え撃とうと、エースが腰を落とし身構えるのを水琴が制止する。
不満そうに振り返るエースに首を振れば、しぶしぶ拳を収め睨みつけるに留まった。
「一時休戦にしませんか、スモーカーさん」
「休戦……?」
「私たちはダンスパウダーを使うつもりはありません。それを使えば、使うことを拒んでいたコブラ王を裏切ることになります」
あくまで自分たちの力で雨を降らせるのだと言う水琴にスモーカーは分からねェな、と吐き捨てる。
「それと休戦とどう関係がある。雨を降らせるから見逃せとでも言うつもりか。以前言ったはずだ。次会った時は覚悟しておけと」
「見逃せというつもりは無いです。ただ、ちょっと協力して欲しいだけで」
「そっちの方がハードル高いだろ」
「そう?」
「海軍が海賊に協力なんぞ出来るか」
予想通り突っぱねるスモーカーに水琴は賭けに出る。
「でも、貴方もこの国の行く末が気になるはず」
「………」
「見てみたくはないですか?奇跡が起こる瞬間を」
人の意志が運命を変えるその時を。