第62章 ここにいる意味
「宮殿を、破壊する……?」
だがたった一人の困惑の呟きを引き金に、どよめきは瞬く間に広がっていく。
戦争が始まってしまった上に、彼らの誇りでもある宮殿を破壊するという王女の言葉に彼らの心は揺れた。
その動揺は声となり溢れ出す。
「何を言い出すんです王女様!」
「ここは四千年の歴史を持つ由緒正しき王宮ですぞ!」
「チャカ様判断を誤りなさるな!」
「国王は不在なのだ!そんな勝手なマネ許されるわけない!」
「__これだから頭の固い連中ってのは……」
「エース、しっ」
騒ぎ出す兵たちにエースがつい愚痴をこぼすのを水琴が諌める。
彼らの言い分も尤もだ。歴史は重い。時には人よりも。
海賊にとっての海賊旗がそうであるように。”象徴”とは人の心を最後まで支える芯のようなものだ。
それを折ろうというのだから反発する声が上がるのは自然の摂理だった。
だが。
困惑の声にも動じず真っ直ぐに立つビビの背中を見つめ水琴は思う。
本当の”象徴”がなんなのか、おそらく彼は分かっている。
黙ってビビと対峙するチャカがふと頬を緩めた。
「__おっしゃる通りに」
膝をつき、深く頭《こうべ》を垂れる。
アラバスタ王国護衛隊副官
守護神・ジャッカルは歴史の先頭に立つ砂の国の王女に改めて忠誠を誓った。