第9章 白ひげクルーとの日常 5日目
ほらほら、と背中を押され厨房へ入る。
誘われるがまま、水琴はキッチンへと向かった。
「ほんとにいいんですか?」
「いいのいいの。多少形が崩れてもそれが愛嬌だって。さ、どんな形にする?薔薇もお菓子の家も何でもござれよん」
「なんでも……」
サッチに言われ、水琴はしばし考える。
「…あの、出来るかどうか分からないんですけど」
しばらくして、ごにょごにょと水琴はサッチへ耳打ちする。
「…へーぇ。なるほどねェ」
「む、無理ですか?」
「いや、出来るよ。基本的には作りやすい形だしな。しかしねェ。そっかー。ふーん」
「……なんですか」
「べっつにー?」
にやにやと笑うサッチに違いますよ!と訳も分からず否定する。
何を考えてるか知らないが、大体は予想できる。
「いやー。エースも愛されてるなァと思って」
「だから違いますって!もう、いいから早くやりましょうよ!」
「はいはい。じゃあまずは__」
***
暗い海をエースはひたすら走る。
全速力で目的の傘下の船へ向かい、普段は宿泊するところをそのままとんぼ返りしエースは予定よりも二日早くモビーのある海域へ帰って来ていた。
「大丈夫か、あいつ…」
しばらく見ていない水琴を思う。
マルコもいるから大事にはなって無いとは思うが、一人にしてしまって不安がってはいないだろうか。
たくさんのクルーに囲まれおろおろとエースの背後に隠れていた事を思い出し今さらながら不安が込み上げてくる。
もちろんエースは水琴が随分とクルー達と馴染みここ数日間楽しく過ごしていたことなど全く知らない。
ビブルカードで位置を確認し進むこと数十分。ようやくモビーディック号の影が見えてくる。
エースは久しぶりに見る家に向かって加速した。