第9章 白ひげクルーとの日常 5日目
人の気配がまばらになった廊下を一人歩く。
寝る前に水でも貰おうと食堂の扉を開けると、夜の食堂には似つかわしくない甘い匂いが水琴の鼻をくすぐった。
思わず匂いの元を探る。
「お、水琴ちゃん。いらっしゃーい」
「サッチさん」
何してるんですか?と尋ねながら近寄ると、白いボウルを掲げて見せられる。
「ちょいと気晴らしに腕を振るおうかなってね」
「サッチさんコックだったんですか?」
「そ。まァ最近はめったに作らなくなったが…今でも腕は落ちちゃいねェつもりだぜ?」
その言葉通り、話しながらだというのにサッチの手つきは実に鮮やかだ。
サッチの手の中で次々と可愛らしい菓子達が生まれ、銀のプレートに盛り付けられていく。
「後はこれを冷やして完成、と。水琴ちゃんもよかったら食べてな」
「ありがとうございます!すごいなぁ。私ももう少し腕があったらいいんですけど」
「水琴ちゃんはあまり料理とかしないの?」
「向こうではよくしてましたよ。兄弟達にお菓子とかもよく作ってましたけど…でも、サッチさんには敵いませんよ」
サッチの手で作られた砂糖菓子達はどれも細部まで綺麗で、フランスの一流レストランのショコラとして出されてもおかしくない程だ。
よく考えたら、海賊船のコックとは言えプロなのだ。水琴と比べてしまってはサッチが可哀想だろう。
「…やってみる?」
「え」
「まだ材料あるし、水琴ちゃんも挑戦してみる?」
「えー!いいですよ。残りもサッチさんがやっちゃってください。せっかくの材料が私じゃ台無しになっちゃいますって」
「俺が水琴ちゃんとやりたいんだって。それに料理は技術よりも愛情!気持ちがこもってれば問題なし」