第8章 白ひげクルーとの日常 4日目
朝の静かな気配を破るように賑やかな、それでいて軽い足音がモビーディックの中に響く。
「ビスタさん!」
次の日。マルコと仕事の話をしているビスタの元へ水琴が駆け寄ってきた。
その顔は朝日を反射する海面のようにキラキラと輝いていて、思わずビスタは目を細める。
「どうした水琴。そんなに慌てて」
「お話中すみません。その、芽が…」
一度息を整えるため深く息を吸い、吐く。
続く水琴の言葉がなにかビスタには容易に想像ができた。
「芽が出たんです!」
「…本当か?」
「はい!ビスタさんのおかげです!ありがとうございました!」
にこにこと本当に水琴は嬉しそうだ。
「私は何もしていない。水琴が最後まで諦めずに世話したからだ」
「でもビスタさんに励まされなかったら諦めてました!やっぱりビスタさんのおかげです」
後で、時間が出来たらぜひ見に来て下さい!
そう言って水琴は踵を返す。
きっと庭園へ向かったのだろう。見送るビスタの表情は優しい。
「芽ってなんのことだよい」
「…なに。彼女の願いが実を結んだ。そういうことさ」
島で手に入れた名も知らぬ花の種を、小さな願いを込めて水琴は土に蒔く。
__どうか、力強く咲きますように。
__嵐にも、風にも負けず。
__冬の寒さにも、うだる様な暑さにも。
__故郷を離れ、遠い海の上でも。
__しっかりと根付き、誇らしくその花を咲かせますように。
そうしたら、私も。
故郷から遠い、この海の上でも。
力強く、生きていける気がするから。
いつか、帰る方法を見つけるその日まで。
自分を勇気づける存在になるように。
水琴の願いは実を結び、庭園には小さな若葉がきらきらと水滴を弾き風に揺れていた。