第58章 ユバ
「ビビ…今ビビと言ったかね?」
「あ……っ」
ルフィの失言に一同焦りが生じる。
今ここで王女が帰還したことがばれてしまうのはまずい。
「おいおっさんビビは王女じゃねェぞ!!」
「「言うな!!」」
どうやってごまかそうと考える横で更なる墓穴を掘るルフィをナミとゾロが殴って止めたがもう遅い。
「あの、私はその…」
「ビビちゃんなのか…そうなのかい…?!」
「え……?」
狼狽えるビビにかけられたのは想像よりもずっと親密な言葉だった。
その声を聞き、ビビは初めてその男の顔をよく見る。
「生きてたんだな、よかった…!私だよ!分からないかい?
無理もない、少しやせたから…!」
深いしわが刻まれ砂と汗にまみれたその顔はビビを見て喜びにあふれている。
その顔に過去の記憶が重なる。
「…!トト…おじさん……?」
「そうさ……!」
瞳に涙が浮かぶ。それは王女の帰還を喜ぶ民のものではなく、ただただかわいがっていた少女の無事を喜ぶものであった。
「そんな……」
変わり果てた彼の姿にビビは言葉を失う。
「私はね、ビビちゃん。国王様を信じてるよ。
あの人は決して国を裏切るような人なんかじゃない…!
そうだろう…?!」
その細い身体からとは思えない、心の底からの叫びがビビの胸を打つ。
震える腕はビビの小さな肩をしっかりと握りしめていた。
「反乱なんて馬鹿げてる…!あのバカ共を…止めてくれ!頼む!
もう…君しかいないんだ……!」
あいつらは追い詰められている。死ぬ気なんだ、と涙ながらに訴える姿はこの国の限界を物語っていた。
次の攻撃が、きっと最後。
「…トトおじさん。心配しないで」
膝をつく彼にそっとハンカチを差し出す。
彼を見つめるビビは顔いっぱいに笑顔を作る。
「反乱は、きっと止めるから!」
その笑顔は、見ていてとても痛々しいもので。
ビビ以外の誰もが皆、言葉を掛けられずにいた。