第58章 ユバ
幸運にも砂嵐は水琴たちの下へたどり着く前に終息した。
しかしその幸運はオアシスまでには至らなかったようだ。
砂にまみれ変わり果てたオアシスの地を踏む。
「そんな…なんてこと」
かつてのオアシスの姿は見る影もなく、まるでそこは砂漠の入り口で見たエルマルのような惨状であった。
他の皆も酷いありさまに口を噤む。
「ここはオアシスじゃねェのかよビビちゃん…?」
「砂で地層が上がったんだ…オアシスが呑み込まれてる…!」
先程の砂嵐でというわけではないだろう。
この数年で少しずつ砂はオアシスを侵食していたのだ。
「……無駄足だったかもしんねェな」
呆然とするルフィたちとオアシスを見比べ、エースが呟く。
「え?」
「考えてもみろ。反乱軍がここに拠点を持ってたのは水や物資が手に入るからだろ。
涸れちまって流通の途絶えたオアシスにいつまでも拠点を置いている訳がねェ」
「…それじゃあ、もう反乱軍は」
「__旅の人かい?」
水琴が続きを口にする前に誰かの声が割って入った。
もはや人の気配などないと思っていたため驚き声の出所を探る。
そこには一人オアシスの中心で穴を掘り続ける男がいた。
からからに乾いた砂をスコップでさらいながら穴の外へ放る。
「砂漠の旅は疲れたろう。すまんなこの町は少々涸れている。
だがゆっくり休んでいくといい。宿ならいくらでもある…
それがこの町の自慢だからな」
こちらに背を向けたまま黙々と掘り続ける姿は遠めから見てもふらふらと頼りなく、疲れ切っているように見えた。