第57章 砂漠の海賊
ぎゅ、と固く結ばれたロープに顔をしかめる。
傍には同じように柱に繋がれたナミとビビがいる。
一人だけ逃げるのは簡単だが、彼女達を置いていくわけにもいかない。命までは取らないと言うが、マツゲを食べられても困る。
「あの、どうにか見逃してもらえません?」
「駄目だな。お前達には悪いが俺達も飢え死に寸前だったんだ。貴重な食料をここで逃すわけにはいかねェ」
「ラクダ一匹で全員の腹を満たせるとは思えないけど」
「少しでも腹の足しになればいいんだ!」
「困ったわ…」
ビビが眉を下げる。説得には応じてくれそうにない。
縛られ泣き震えているマツゲに目をやる。
「…じゃあこうしましょう」
少し考え、水琴は顔を上げた。
「私がこの船全員分の腹を満たす獲物を狩ってきます。だから、ラクダは見逃してもらえませんか?」
「お前が?」
突然の申し出に船長、バルバロッサは顔をしかめる。
一見か弱そうな女一人が獲物を狩ってくると言って簡単に信じられる者も少ないだろう。
「全員分の腹を満たすなんて、牛一頭ってレベルじゃねェぞ。一人だけ逃げようって魂胆じゃねェだろうな」
「水琴はそんなことしないわよ!」
「それに彼女の強さも私達が保証します」
ナミとビビが援護してくれる。
二人の様子にううむと唸るバルバロッサ。
「それに、一人じゃないですから」
もうひと押しだ、と水琴は縛られたマストの上を見上げる。
「……ん?」
見上げた先には見張り台の手摺に器用に座り込む男の影。
「ようやく追いついたと思ったら、何やってんだ水琴」
「エース?!」
「全然気付かなかった…」
同じように上を見上げ二人が驚きの声を上げる。
「今の話聞いてたでしょ?」
「聞いちゃいたけどよ…」
「ということです。彼と二人で狩ってきますので、どうでしょうか?」