第8章 白ひげクルーとの日常 4日目
「店員はなんと?」
「どんな場所でも咲く強い花ですよって。でもまだ芽が出ないんですよね」
若葉すら出ない名も知らぬ花を見つめる。
ひょっとしてもう駄目になってしまったんだろうか。
やっぱり、いくら強い花とはいえ様々な気候を渡り往くモビー号では無理があったのかもしれない。
…それとも、やはり生まれ故郷で無いと、駄目だったんだろうか。
じっと黙ったまま下を向いていた水琴の頭にぽんと何かが乗る。
顔を上げれば、ビスタの軍手を外した手がそっと乗せられていた。
「なぜ咲かないと決めつける」
「え……」
「まだ分からないだろう。最近寒い日が続いていたからな。遅れているのかもしれない」
「で、でももう蒔いてから二週間経つのに…」
「私の育てた花の中には一か月雪の中に埋もれ続けて咲いたものもあった。植物の生命力を馬鹿にしてはいけない」
違う世界に来てしまっても力強く生きる人間もいるのだから、とビスタはニヒルな笑みを水琴に向ける。
どうやら水琴がこの花に自分を重ねていたことはお見通しらしい。
「この花はどんな場所でも咲く強い花なんだろう。蒔いた水琴が諦めてしまってどうする」
「……そうですね」
ビスタの言葉にぎゅっとジョウロを握りしめる。
諦めかけていた心が再び強く希望を持ち始めた。
「私もう少し頑張って世話します!芽が出たら、一番にビスタさんに見せますね!」
「楽しみにしている。綺麗な花が咲くと良いな」
それからしばらく二人はたわいもない雑談をしながらそれぞれ花の手入れを続けた。