第56章 危険がいっぱい
「__どうして、そこまでして水琴さんの意思を尊重しようとするの?」
もし、水琴の安全を第一に考えるのなら、やはり先のナノハナで別れるべきだった。
水琴はごねるだろうが、エースならばきっと上手く説得し連れ帰ることが出来ただろう。
そうせずに、わざわざ危険を冒してまでそうする理由は何なのか。
「__アイツさ、海賊らしくないだろ」
返ってきたのは答えではなく、突拍子もない内容だった。
虚を突かれるものの、ビビは頷く。
「えぇ。最初白ひげだって聞いた時は、こんな普通の女の子がいるんだって驚いたわ」
それくらい、水琴は“普通”だった。
ジャングルでは虫を怖がり。
ドラム王国でチョッパーに会ってからはその肌触りが気に入ったのかぬいぐるみ相手のように抱き着き。
船の中でも、何もない所で躓いたりサンジの作るデザートにきらきらと顔を輝かせたり、かと言えばなぜかゾロの持つ刀に興味を示したり。
あまりにも海賊らしくない海賊。
水琴の様子を思い返していると、くく、と小さな笑い声が聞こえる。
「だろうな。本当だったら、海賊なんかじゃない、もっと普通の人生を歩んでたはずなんだ」
水琴が異世界の民だっていうのは知ってるんだろ。
エースの言葉にビビはえぇ、と返した。
「なんでも、異世界へ通じる井戸からやってきたって……」
「なんだ、そんなことまで話してあんのか」
随分と打ち解けたんだな、と嬉しさと寂しさがないまぜになったような声で呟く。
ルフィ達とじゃれあう水琴を優しい目で見つめる。
その目には多くの困難と冒険を乗り越えてきた信頼が溢れていた。