第56章 危険がいっぱい
「__おれが、引っ張り出しちまったんだ」
「エースさんが……?」
「あぁ。偶然てか、事故みたいなもんだが…クルーみんなで何が出てくるか試してて、おれが手ェ突っ込んだら水琴が出てきたんだ」
あんときゃびびったな、と笑う。
井戸に手を突っ込んで、引っ張り上げたら人……
それだけ聞いたらホラーだ。
「それで、それから色々あって……
一度は、元の世界に帰ったんだ」
「え……」
それは初耳だった。
てっきりそれからずっと、こちらの世界にいるのかと思っていた。
「百年に一度、異世界へ通じる泉があって…そこから、水琴は帰った。
元の、平穏な暮らしに戻れたんだ」
だけど、また帰ってきた。
今度は事故じゃなく、自分の意思で井戸に飛び込んだ。
元の世界にいたはずの、大切な友人や守るべき家族。
住み慣れた街に、これからそこで築いていくはずだったろう未来。
それら全てを捨てて、“白ひげ海賊団《おれたち》”を選んでくれた。
「だからおれ達はせめて、守りたいんだ」
それが先程の答えなのだとビビは気付く。
この、海賊らしくない彼女が。
せめてありのままの姿で、この世界で笑っていられるように。
そう呟く彼の瞳は優しかった。