第8章 白ひげクルーとの日常 4日目
「……あれ」
モビーディック号にひっそりとある庭園。
海賊船には似つかわしくない、ちょっとした中庭は最近の水琴のお気に入りだ。
そこには花壇もあって、少し前から水琴は花の種を蒔き世話をしていた。
今日もジョウロ片手に水をやろうと庭園へ足を運ぶと、そこで珍しい姿を見つけ水琴は足を止めた。
「ビスタさん」
「…む。その声は水琴か」
何やらしゃがみこみ作業をしていたビスタは立ち上がり水琴の方を向く。
その手には軍手。
「もしかしてビスタさんも花の世話を?」
「というと水琴もか。仲間が増えて嬉しい限りだ」
どうやらこの花壇の世話をしていたのはビスタだったらしい。
「他にもいるぞ。整備士のウィリーなんかもそうだな」
「そういえば前植物園で真剣に鉢植え見てました」
「緑は良い。心が癒される」
「分かります!森林浴とか、マイナスイオン全身に浴びてるって感じで良いですよね!」
「マイナスイオン?」
「すいません。こっちの話です」
首を傾げるビスタに目を逸らす。
自分もよく分かっているわけではないので深く追求されるとちょっと困る。
「水琴は何を育ててるんだ?」
「実は私もよく分からなくて。この前寄った島で手に入れたんですけど名前が書いてないんです」
なんでしょうね、と目印に立てている札に目をやる。
普通は種の袋には咲いた時の花と名前が書いてあるものだが、その袋には一切の記載がない。