第55章 砂漠の旅の始まり
突風が通り抜けた。
後ろにもっていかれそうな勢いにそれぞれ足を踏ん張る。
「………!」
風に交じり、水琴の脳裏に風景が浮かんでは消える。
枯れる井戸。嘆き悲しむ声と怒号、悲劇。
一気に襲いかかったそれらの記憶と感情の群れに、水琴は膝をついた。
「おい水琴。しっかりしろ」
「……泣いてる」
ふらふらと視線の定まらない水琴が呟く。
「泣いてる。苦しいって、叫んでる……」
水琴は元々見聞色の覇気が強い。
カゼカゼの実を食べ、風の声を聞くようになってから余計にその感覚は鋭くなった。
当てられたか、とエースは意識を戻すために強く腕を掴む。
「おい水琴!」
「ぁ……エース…?」
「平気か?」
「……ごめん、もう平気」
しっかりと目を合わせ水琴は頷く。
「水琴も、聞いたのか」
水琴の様子にルフィが尋ねた。
ルフィを見ればじっと水琴を見つめている。
きっとルフィも同じものを感じたのだ。水琴はこくりと頷く。