第54章 友達だから
エースの活躍もあり無事沖へ出たメリー号の廊下を二人歩く。
そこまで長い航路ではないが、一応船内の様子を案内しておこうと水琴が先頭に立ち一つ一つ設備を説明していく。
最初は水琴の説明に相槌を打ちながら物珍しそうに周囲を眺めていたエースだったが、次第に口数が減っていった。
「…エース?」
「詳しいんだな」
「そりゃ、そこそこ長く乗ってるわけだし…ねぇ、エース」
どうしたの、と首を傾げれば水琴、と名前を呼ばれる。
大人しく傍に寄れば唐突に抱きしめられた。
突然のことに驚き抵抗しようとしたが、余計にエースは力を込め抱きしめてくる。
「ちょ、エース…!」
「心配した」
小さく呟かれた言葉に抵抗を止める。
ぎゅっと水琴を抱きしめる腕はまるで親に縋る子のようだった。
「船にいないって気付いてから今まで、どんな気持ちだったと思ってんだ」
「……うん、ごめん」
ルフィの船に飛び込んでからそこまで時間は経っていない。
新世界から、それこそ寝る間も惜しんでここまで捜しに来てくれたと思うと水琴の心にじんわりと申し訳なさと嬉しさが広がる。
「エース、迎えに来てくれてありがとう」
嬉しかった、と告げればエースはしばしの沈黙の後呟く。
「……おれ達は、“白ひげ”だ」
そんなに馴染むなよ、と呟かれる言葉に目を瞠る。
先程と同じ言葉なのに、込められた意味は全く違うそれにくすりと微笑む。
「…エース。私の帰る場所は、モビーディックだよ」
「……ん」
ならいい、と身体を放すエースを見上げればばつの悪そうな顔。
先程まで弟の前で兄ぶっていた姿はどこへいったのだろう。
元気付けるようにくしゃくしゃと黒髪を撫で、腕を引く。
「ほらエース!これから宴なんだから、行こう!」
サンジの料理はサッチと同じくらい美味しいんだから!と言えばようやく笑顔が戻る。
「へェ、そりゃ楽しみだ」
「あ、でも程々にね。ルフィとエースが本気出して食べたら、この船の食糧無くなっちゃう」
「そりゃねェよ!」
わいわいと言い合いながら甲板へ出る。
久しぶりの雰囲気を楽しむかのように、その足取りはゆっくりとしたものだった。