第54章 友達だから
「__あ~~ったく……」
先に視線が逸れたのはエースだった。
がしがしっと頭を乱暴にかき、テンガロンハットを深く被り直す。
「……敵わねェよな、ほんと」
「エース……?」
「おいルフィ」
いまだ転がったままのルフィに水琴越しに呼び掛ける。
「予定変更だ。少しばかり厄介になるが、いいか?」
「おぅ!」
「じゃあ……」
「帰ったらマルコと親父の説教受けろよ」
口調とは裏腹に、見下ろしてくるエースの表情は優しい。
「……エース大好き!!」
「ぐほァ!!」
がばり!と抱きつく。
バランスを崩したエースの背中が手摺にぶつかりぐきりと良い音を立てた。
「おまっ、急に抱きつくな!」
「ごめん、つい……」
てへ、と見上げればじと目で見返される。
なんとか落ち着いたと安堵の空気が船全体に生まれた時だった。
バシャァァアアアアン!!とメリー号の近くに重い何かが打ちつけられる。
「っ、なんだ?!」
「おい、砲撃か?!」
サンジが何かが飛んできた方を見れば、数隻の艦隊がメリー号へと迫っていた。
「火拳だぁぁ!!」
「名を挙げるチャンスだ!打ちとれぇぇ!!」
「あァ、どうやらついてきちまったみてェだな」
「あれ、全部エース狙い?」
「どうやらそうらしい」
おーおー随分集まったなァ、とのんびりと見る横でゾロとサンジが迎撃の準備をする。
「ちっ、まったく面倒くせぇ」
「だがやるしかねェだろう」
「いや、お前らはここにいろ」
すたん、とエースが軽々と手摺へ飛び移る。
「あ……?」
「世話になる前払いだ。元々おれ目当てらしいからな。ちょっくら行ってくる」
「ちょ、ちょっと!一人で?!」
「平気平気」
ひらりと手を振りストライカーへと乗り移る。
呼び止める暇もなくストライカーは艦隊の方へと滑って行った。
「だ、大丈夫なのか、あの数…」
心配そうに呟くチョッパーを安心させるように水琴はにっこりと笑いかける。
「火拳の名は伊達じゃないよ」