第53章 火拳のエース
「ふぅー、食った食った」
「あ、あんたよく食ったな…」
からんとフォークを放る。カウンターにはエースがたいらげた皿が山のように積まれている。
腹も落ち着いたエースは目の前で呆れたように佇んでいる店主に二枚の手配書を見せた。
「ところでおやっさん。こんな奴らがこの町に来なかったか?」
そこに写っているのは満面の笑みを浮かべた弟と水琴。
「いや…見覚えはねぇな。なんだあんた、賞金稼ぎか?」
「そういうわけじゃねェんだが…」
ここもハズレか、とエースは手配書をしまう。
ビブルカードを見る限り、水琴もこの町に来ているはずだ。
もしかしたら既に出てしまったのだろうか。
もう一度確認してみるかと席を立とうとした時、背後に気配を感じた。
「…よくも抜け抜けと大衆の面前で飯が食えるもんだな。白ひげ海賊団二番隊隊長…ポートガス・D・エース」
現れたスモーカーの言葉に周囲の人間がざわめく。
「し、白ひげ海賊団…?」
「あの兄ちゃん、海賊だったのか…?」
「あーあ、せっかくタトゥ隠してたっつーのに」
店内でも羽織ったままだったマントを手で払い、努力が水の泡になってしまったことに溜息を吐く。
そして聞き覚えのある声に別の意味でも溜息を吐いた。
声の主を見れば新世界で一度目にした海軍大佐。
「よォ、久しぶりだな大佐」
「新世界にいるはずの手前ェがなぜ前半の海に居やがる」
エースの挨拶を無視してスモーカーは詰問する。
それを気にすることもなくエースは肩をすくめた。
「いやなに。ちょいと人を捜してんだ」
「人だと……?」
捜し人はもちろん水琴とルフィのことだが、丁寧にそこまで教えてやる義理はない。