第53章 火拳のエース
ナノハナの大通りに面した一軒の飯屋。
その飯屋の前に人が溢れていた。
「おい、死人だってよ」
「なんで誰も入らないんだ」
「なんでも知らないで砂漠のイチゴを食っちまったって話だぞ。だから誰も近寄れないのさ」
きっとまだ毒が回ってるだろうからな、と住人達は囁き合いながらカウンターに突っ伏した男を見つめる。
その手はスプーンを握りしめたまま、カウンターに落ちることなく硬直していた。
「見ろよあの腕。あっという間に硬直してやがる…」
住人が見ている前で、ぴくりと腕が動いた。
「んあーー!!」
がばり!と男が身を起こす。
「「生き返ったーー!!!」」
思わず同時に叫ぶ。
「ふー、まいった。また寝てた」
「なんだ、寝てただけかよ、人騒がせな!」
「しかもまた噛み始めたぞ」
「なんだか騒がせちまったみたいだな。すまね___ぐーーー」
「「また寝るのかよ?!」」
起きたと思えば再びかくんと落ちる頭に総出で突っ込む。
今度はすぐに覚醒したエースは次々と皿を空にしていった。
何事もないと分かり次第に人込みは減っていく。
その店の前に一人の男が現れた。
目を細め、ゆっくりと中へ入っていく。