第2章 始まり
そこには小さな井戸がぽつんとあった。
縄をたぐって落としていた桶を引き上げる。この井戸の水はとても冷たいので、きっときんきんに冷えているだろう。
取り出したジュースを軽くタオルで拭くと、桶を戻すために軽く腰をかがめた。
その拍子に視界に入ったペンダントを何となくいじる。
「………」
きっと、もう覚えていない。
それは水琴も同じことだ。
当時の水琴にとって大切な存在だったのは確かなのに、何故か胸に残るのは当時の想いだけで。
いつ、どんなことをしていたのかすっぽりと頭の中からは消えていた。
なので『初恋の人』とはいえ、今更会って「好きでした」と伝えようとは微塵にも水琴は思っていなかった。
けれど、できれば一言伝えたかった。
会って一言_____
プツンッ、と言う音に水琴は我に返った。いじりすぎたのか、すでに劣化していたのか、水琴の手の中でペンダントの紐が静かに切れる。
そして物思いにふけっていた水琴の手から、ゆっくりと滑り落ちた。
「あっ……!」
思わず手を伸ばし、身体を乗り出す。この井戸は深く、暗い。
一度落とせばきっと二度と見つからない。
「待って……!」
必死で手を伸ばす。紐の端をつかんだと思った瞬間、水琴の体は反転していた。
「???!!!!」
そのまま頭から井戸へ。
ばちゃんという水音と同時に冷たい闇が水琴を覆い。
そのまま意識が途絶えた。