第2章 始まり
「みっちゃんが言ってたよ、お姉ちゃん初恋の人にもらったペンダントずっと大事に持ってて、いつか迎えに来てくれるのを待ってるんだって」
「い、いや、えーっと…」
「お姉ちゃん結婚するの?ドレス着る?」
口を挟む暇もない。きゃーきゃーと盛り上がるりさに対してどう言おうか困る水琴にシスターがみかねて助け船を出した。
「りさ、あっちで片付けをしているから、手伝ってあげて頂戴?」
「はーいシスター」
素直に返事をして、またねお姉ちゃん!と言うとりさはぱたぱたと駆けていった。
はぁ…と重い溜息を吐く。
「ここにいる間に、会えたらよかったわね」
そんな水琴にふふっと笑ってシスターが声を掛ける。
「シスターまで。会えるわけないってば、もうずっと昔のことなんだから」
そう言って水琴は首にかかったペンダントへと手を伸ばした。
赤い石がシルバーで装飾された、シンプルなもの。
これをもらった当時の事を水琴もよく覚えているわけではない。
覚えているのは、大きくて温かい掌と優しくて眩しい笑顔。
その笑顔すら、イメージが残るばかりでどんな顔だったのかはっきりとしない。
「それに、もうとっくに忘れてるって。向こうはずっと年上だったし」
こっちだってずいぶん成長してしまっている。いま街中ですれ違っても、お互いきっと分からないだろう。
「あ、裏で冷やしてたジュース持ってくるね!」
話を無理やり打ち切るように笑い、くるりと背を向けた。
何か言いたそうなシスターを残して裏庭へ出る。