第50章 存在の定義
「……そう」
静かに呟く水琴の言葉がつきりと胸に刺さる。
そのことに、どこかで水琴は否定してくれるのではないかという甘えがあったことに気付いた。
「__ねぇ、チョッパー」
己の浅ましさに落ち込んでいるチョッパーの名前を水琴がそっと呼ぶ。
「私も、チョッパーも、他人が私たちをそう呼ぶのを止めることは出来ないよ」
異世界の民であること、化け物であること。
それはきっと事実で、覆すことの出来ない絶対のもの。
「だけど、私たちがどうあるかを決めるのは、いつだって自分自身なんだよ」
優しくチョッパーを見つめる水琴の瞳は、どこか別の海を映しているようだった。
それはきっと、優しくも強い彼女の家族。
「私のことを異世界の民だと、ただの資源だと見る人がどれだけいたって。私の名前を呼んでくれる人たちがいるから、私は”私”であることを忘れないでいられるんだ」
「名前……」
__チョッパー。お前はトニー・トニー・チョッパーだ。良い名だろう?
記憶の中で、ドクターがにやりと笑う。
「ねぇ、”君は誰?”」
「俺……俺、は」
水琴の問いかけにチョッパーは俯く。
自分が誰かなんて、考えたこともなかった。
だって、誰もが皆、チョッパーのことを”化け物”と呼んで。
いつしか、それが当たり前だったから。
__俺はお前をこれからそう呼ぶぜ、チョッパー!
でも、そうではなかった。
答えなんて、初めからずっとここにあったのだ。
「俺は……っ!」
顔を上げたチョッパーの鼻を覚えのある匂いが掠めた。
はっとチョッパーは険しい表情を作る。
「…チョッパー?」
急に様子の変わったチョッパーを水琴は心配そうに覗きこむ。
「……ごめん」
獣型となったチョッパーは、水琴を置いて廊下を駆けた。
「なんで、なんであいつの匂いがここに…!」
ドクトリーヌの元へ駆ける。
「ドクトリーヌ!」
バンッ!!とナミの部屋へ駆けこむ。
「どうしたんだいチョッパー。騒々しい」
「あいつが…ワポルが帰ってきた!」
「……そうかい」