第50章 存在の定義
「お、お前俺が怖くないのか…」
「なんで?」
「だ、だって、トナカイなのに二本足で歩いてるし、話すし、
………………青っ鼻だし」
小さく最後に付け加えられた言葉にやっぱりコンプレックスなのかと水琴は微笑む。
笑うなてめェ!とチョッパーがすごむが壁に隠れているからあまり怖くない。
「怖くないよ」
「………なんで」
「怖がる理由がないもん」
君こそ、私のこと怖くないの?と聞けばチョッパーはきょとんと首を傾げた。
「くれはさんから聞いたんじゃないの。私が異世界の民だって」
たった一人の助手だ。きっと聞いているだろう。
そう思い尋ねればチョッパーはこくりと頷いた。
「ドクトリーヌから聞いた…異世界の民の血は、万能薬だって」
「普通じゃないでしょ。怖くない?」
「…でも、お前は見た目は普通だし、匂いだってニンゲンだし…」
「でも、私は異質だよ」
見た目が同じだからこそ。
自分と違うものを持った存在を、人は同じだと認めない。
かつて異世界の民の水琴を”物”としか見ていなかった科学者のように。
「……怖くねェ」
ここではない違う場所を思う水琴にチョッパーはぽつりと返した。
水琴は一瞬目を丸くし、それからにっこりと笑う。
「私は水琴。君は?」
「…チョッパー」
「そっか、チョッパー。改めて、はじめまして」
友達になろうよ、と差し出された手を驚きと共に見る。
「ニ、ニンゲンなんかと友達になりたくなんてねェぞ!おれは!」
初めてのことに戸惑い、そう怒鳴るチョッパーに対し傷つくこともなく、それは残念。と水琴はけらけらと笑う。