第49章 魔女
「……それは、どういう…」
「その小娘。ケスチアの抗体が出た。百年前に滅んだはずのダニだ。傷口の状態からかなり進行していたにも関わらず、容態はそこまで悪くなかった」
だからこそ、この吹雪の中でも耐えられたんだろうね、と酒瓶を傾ける。
「…抗体と共に、妙な物質も検出された。この世界の人間にはまずない反応だ。そしてお前の右足にある“白ひげ”のマーク」
単刀直入に言うよ。
「あんた“異世界の民”だね」
「………っ!」
まさか、こんな前半の海にまで知れ渡っているとは思わなかった。
告げられた言葉に水琴は息を呑む。
「……あなたも、異世界の民の血に興味があるんですか」
「いいや。あたしはそんなものなくても医学があるからね。興味なんて無いさ。ただ、その血があればこんなとこまで来る必要なかった。違うかい?」
「………」
「敢えて死なない程度に血を与え、この島にわざわざ寄った理由はなんだい?」
Dr.くれはの鋭い視線が水琴を貫く。その目は良からぬことを企んでいるなら容赦はしないと語っていた。
「…あなたの言うとおりです。私がこの血についてよく知っていれば、ナミは苦しい思いを長引かせることもなく、ルフィ達もこんな怪我をすることもなかったんです」
水琴は俯く。
船の上で、水差しを取りかえる度に胸が痛んだ。
そして、今まで知ろうとしなかったことをひどく後悔した。
“異世界の民”なんて関係ない。
私は私だと、自分のことを知ろうともしなかった。
しかし、そのために助けたい仲間を助けることが出来ず、他の仲間まで危険な目に合わせている。
悔しさに手に力が籠る。
私は、私に出来ることをしよう。
いつもそう思っていたはずなのに、結局は傷つくのが嫌で、出来ることから目を逸らしていたことを水琴は痛感した。
異世界の民である自分も、私であるというのに。