第44章 古代の島
「やっぱり、思い出せない…」
女部屋のベッドに寝転び、自分の記憶を掘り起こし検証した結果わかったことは二つ。
一つ、原作に関わる現在から未来の細かな内容は思い出せないこと。
二つ、キャラクターとしての知識は未来のことだとしても覚えていること。
例えば先程のロビンの話。
彼女がこの船に警告をしたことは覚えていなかったが、この先の未来でルフィの仲間になることを私は知っている。
しかし、どう頑張ってもどうしてそんな結果になったのかが思い出せなかった。
「最近読んでないから忘れた…ってわけじゃないと思うんだよね」
だってここより前の内容ははっきりと思い出せる。
ルフィが海へ出た理由。
どうやって彼らが集まり、グランドラインへ辿り着いたか。
だが、なぜか“アラバスタ編”のことを思い出そうとすると、記憶にもやがかかったように分からなくなる。
忘れているというよりは、隠されているような妙な感覚。
考えられることは一つ。
「これも、世界意思の修正ってことなのかな…」
元の世界に帰った時、この世界での記憶が少しずつ薄れていたように。
モビーディック号に乗っている時は意識したこともなかった。
当然だ。だって白ひげ海賊団の冒険は漫画では全く描かれていない。水琴が知るはずもないことなのだ。
だがルフィ達の冒険は違う。
未来を知る人間がいるだけで、本来の流れが大幅に変わってしまうこともありうる。
知っていることで避けられる害もあるだろうが、そのためにさらなる害を引き寄せてしまうことも、ありうる。
最悪の場合、アラバスタが救われる結末が変わってしまうかもしれないのだ。
それだけは避けないといけない。
「そういう意味では、良かったのかもなぁ…」
未来なんて、知らなくていい。
だってその方が、観客としてではなく登場人物として思い切り動ける。
なんとなく結論付けた水琴の意識は疲れもあってゆっくりとまどろみ始めた。
すぅ、と目を閉じる。
あの井戸をくぐった時から
この世界で“生きる”と決めたのだから。