第42章 琴瑟が奏でる音は
水琴だってルージュがどんな想いだったか全てを知っている訳では無い。
水琴が知っているのは、あくまでも原作に書かれていたたった数行のルージュのセリフのみ。
けれど想像はつく。
だってそうでもなければ、エースを守るために20ヶ月もの間、胎内で守るなど出来るはずもないのだから。
想いをのせ曲を奏でる。
エースは生まれてすぐ独りになってしまったかもしれないけれど。
確かに母親に愛されて、望まれて、生まれてきたのだと。
そうして彼女が願った通り、今エースの前には明るい未来があるんだと。
ルージュは死んでしまっても、その想いは、願いは、きっと今でもエースを守ってる。
余韻を残し曲が終わる。
小さく息を吐いて横笛から口を離すと、背後から温もりが水琴を包んだ。
「え、ええエース?!」
突然の距離に心臓が大きく跳ねる。
肩に乗るエースの頭が優しく水琴の首筋をくすぐった。
「ど、どうしたの……?」
「ん?いや、感極まってつい」
ありがとな、と呟く声はどこまでも優しく、先程までの感情の色は微塵も見えない。
その声を聞くだけで戸惑っていた水琴の感情もほわりと落ち着き、温かなもので満ち溢れた。