第42章 琴瑟が奏でる音は
向かう先は甲板後部へと続く通路の片隅。
よく水琴が特訓を行っているところで、最近では水琴の憩いの場として定着しつつあった。
夜に訪れるそこは通路の陰ということでとてもひっそりとしていて、ただ月明かりと潮風だけがそこを支配していた。
そんな空間で手摺に身体を凭れ掛け、海の方を臨むエースの後ろ姿からは先程まで宴の中心で騒いでいた賑やかさは欠片もなく。
そのまま消えてしまいそうな危うさに水琴は思わず声を掛けた。
「エース」
思いの外響いた声にエースは振り向く。
反応が貰えたことに内心ほっとしながら水琴は隣へと並んだ。
「隣いい?」
「おう」
「気が付いたらいなかったから心配したよ。もう酔っちゃった?」
「ん……ちょっとな」
言葉少なめのエースを横目で見上げる。
エースの視線は水琴には向いておらず、ただただ闇に染まる海の彼方へ向かっていた。
その横顔は、ここでは無い何処かを見ているようで。
決して届かない何かを想っているようにも見えた。
__誰のことを、想っているのだろうか。
切ないエースの表情を見ていたくなくて、水琴はあのね、と敢えて場違いな明るい声を出す。