第42章 琴瑟が奏でる音は
「あらヤダ水琴ちゃん、もしかしてついに…!」
「だからちがああああう!!」
ムキになった水琴はここが他人の部屋だということも忘れ感情的に吼える。
「ほんっとうに何もないんだからね!!」
「分かった分かった、悪かったって」
流石にこれ以上刺激してはまずいと思ったのか、サッチは両手を上げ降参のポーズを取る。
「でもよ、何かしてやりたいって思うくらいには特別に想ってるわけだろ?」
「それは……まぁ」
「なら付き合ってみてもいいんじゃねェの」
アイツだって悪い気はしねェと思うけどなァと言われ、そうだろうかと水琴は首を傾げる。
「……妹くらいにしか思われてない気がするけど」
確かにエースとはよく一緒にいる。
島に上陸する時は用事が無ければ大抵声を掛けられるし、船内でも一緒に過ごすことが多い。
けれどそこに異性として意識されているかと言われるとそういう感じでもない気がする。
付き合った経験はゼロだが、水琴だって甘酸っぱい恋の一つや二つしているし、恋バナに湧き立つ男女の友人をたくさん見てきた。
そんな彼らとエースの態度を比較して、同じようには見えなかった。
うーむと考え込む水琴だったが、サッチのにやにやと笑う顔に気付きはっとする。
「そ、そもそも付き合うとかそんな話じゃなくて!エースの誕生日の話だから!」
「うんうん、そーだよな。まァまだ時間はあるし、ゆっくり考えな」
何か余計なものまで含んだ物言いにもやっとするがここで押し問答を続けていてもしょうがない。
ごちそうさま、と礼を言い水琴はサッチの部屋を後にするのだった。