第42章 琴瑟が奏でる音は
「え?エースって十九歳だったの?」
「なんだ知らなかったのか?あんだけ一緒にいるからてっきり知ってるとばかり思ってたぜ」
水琴の言葉に意外だとでも言うようにサッチは肩を竦めて見せた。
サッチの部屋で手製のクッキーをつまみながら水琴は「だって話題になったこと無かったし」と紅茶を啜った。
本日はサッチの気まぐれで開催される試食会。
まだ客人であった頃、偶然夜中に菓子作りを共にしてから水琴はこの試食会の常連であった。
本日はハルタとビスタが一緒だったのだが、ハルタは急遽隊の仕事が入ってしまい来れず、ビスタは当番の時間のため先程出ていってしまい水琴一人となっていた。
ならもうお暇しようかと腰を上げかけたのだが、サッチにまだあるからと次々と新作を出されこうして試食を買って出ている。
あくまでサッチのためである。プロ顔負けのスイーツが食べ放題だからでは断じてない。
「そっかぁ、じゃあ私のひとつ上だったんだね」
原作初登場時は既に二十歳だったため、この世界でもそうだろうと勝手に思い込んでいた。
カレンダーを見れば誕生日まで一ヶ月を切っている。
白ひげ海賊団は大所帯のため誕生日を月単位で祝うのだが、隊長クラスは別でそれぞれの日付で祝われる。
なのでエースも年越しと同時に誕生日を祝われるはずだ。
「何を用意しよっかなぁ」
エースには日頃から世話になっている。宴で祝うのとは別に何か用意したかった。
「食べ物はコックたちがたくさん用意するだろうし、プレゼントっていってもエースが喜びそうなものってなんだろう……」
「そりゃーアレだろ。男がもらって嬉しいものなんてひとつっきゃないって」
「なに?」
「『ステキ!抱いて!』の文句と共に熱烈なチュー!」
「何言って……」
ふと先日の島でのことが脳裏に浮かぶ。
すっぽりと手首を包んでしまった大きな手。
鼻腔を擽る石鹸と染み付いた海の香り。
果実を咀嚼する口元からちらりと覗く赤い……
「……お前ら何かあった?」
「ないっ何もない!」
赤くなる頬を抑えぶんぶんと首を振る。
その様子を見てサッチは「まっ」と口元を抑えた。