第41章 誓い
エースのお節介によっては水琴はタトゥーをする機会を永遠に失うかもしれないのに、分かっているのだろうか。
少々不安を感じながらもひとまず彼のことは放っておき水琴は他の源泉を確かめるために島中を回る。
温泉を売りにしている島なためその数は多い。島の大きさもそこそこあるため丸一日かけてもようやく半分といったところだった。
「なァ、そろそろモビーに戻らねェとまずいんじゃねェか」
黙って水琴の後をついて回っていたエースだったが、日が落ちかけているのを見てとうとう口を出す。
「完全に夜になるぞ」
「エースは帰っていいよ。私は戻らないから」
宿の共有スペースを陣取り、情報を書き込んでいた地図と睨めっこしていた水琴は視線をあげずに答える。
「戻らないって、どうするんだよ。まさか夜中まで駆けずり回る気か?いくらなんでも迷惑だぞ」
「さすがに休むよ。ただ船に戻ってると時間が掛かっちゃうでしょ。だからそのあたりで適当に宿取るつもり」
「適当って…一人でかよ」
「大丈夫だよ。ここは親父さんの領土だし、いざとなったら風になって逃げるから」
「逃げ切れるとも限らねェだろ」
おかんモードが発動しそうなエースから逃れるように地図へ顔を埋める。
普段はどちらかというと大雑把なくせに、こうなるとエースはなぜかくどくどと小言が多くなるので面倒だ。
どうにかはぐらかそうと視線を彷徨わせる水琴は宿の人間が何か言いたそうに遠巻きに見ていることに気が付いた。
「どうしたんですか?」
これ幸いと水琴は女性に近寄る。気付いてもらってほっとした様子で女性は「お部屋の用意が出来ております」と伝えた。
「部屋?」
「代表が、私たちのために調査をしてくださっているのだから宿くらい提供すると」
お代は結構ですので、と告げられ水琴はほっと安堵する。
これでとりあえず宿の心配はせずに済むし、なによりエースの小言から逃れられる。