第4章 お勉強しましょ
マルコの朝は忙しない。
新聞で情勢の確認、書類のチェック、各隊への仕事の振り分けなど、数え上げればきりがない仕事がようやく落ち着いた頃には既に日は高く昇っていた。
少し休もうと食堂でコーヒーをもらい、部屋で寛いでいる時だった。
コンコン
ドアが控えめにノックされる。
この船でこんな風にノックする奴はそう多くない。
「入れよい」
そう声を掛ければドアが静かに開いた。隙間から顔を覗かせたのは最近船に乗り込んだ新人。
「お忙しいところすみません。マルコさん今平気ですか?」
とある島で、異世界へ通じるという井戸からエースが引っ張り出してしまった異世界からの客人。
水琴と名乗った少女は机の上のコーヒーと積まれた書類に目をやり、申し訳なさそうに眦を下げた。
「すいません。やっぱりまた後に…」
「いや、丁度休憩してたとこだよい。どうした?」
どうやらまだ仕事中だと思ったらしい。出ていこうとするのを呼び止め、用件を促す。
呼び止められた水琴は静かに中に入り、ドアを閉めた。
「実は、文字の勉強をしたくて…」
「文字?」
「はい。やっぱり読み書きできないのは不便かと思って。時間がある時に少しずつ教えてもらってるんですけど、なかなか進まなくて…それで、マルコさんにお勧めの教材があったら教えてもらえたらと」
そう言えば最近水琴が航海士や船医の所に居るのをよく見る。
何をしているのかと思ったが、文字を教えてもらっていたのか。
最初の宴の時からずっと、水琴が慣れない世界に必死に馴染もうと努力しているのは知っていた。
この前上陸した初めての島でも、文字が読めなかったことを気にしていたとエースから報告を受けている。
確かに、文字を知っているのと知らないのでは心持も随分違うだろう。