第2章 始まり
ぽかぽかと暖かい麗らかな日曜の朝。
今日はイースター。クリスチャンにとって最大の祝祭日ということもあって、教会と併設されたこの施設も普段よりも賑わいを見せていた。
「水琴お姉ちゃん、お歌どうだった?」
「うん、すごく上手だったよ」
「えへへー、いっぱい練習したんだ!」
「そっか、りさは偉いね」
嬉しそうに笑うりさの頭を優しく撫でるとくすぐったそうに目を細める。
そんな可愛い妹分を見て、あぁ明日からはこんな生活もなくなるんだなと思うと鼻の奥がつんとしてくる。
「あなたがいなくなると寂しくなるわね」
「シスター」
神父が説教を終え、人々が立ち上がりざわめきが戻る中、老齢の女性が水琴を寂しげに見つめる。
ここ、養護施設では高校を卒業すると誰もがこの施設を出て独り立ちしなければならない。
幼い頃からいる水琴にとっても例外ではなく、今年の春からここを出て職場の近くで独り暮らしをする予定だ。
「出ると言っても通える範囲だから。ちょくちょく遊びに来るよ」
寂しさを押し殺してそう言って笑う。しかしそんな水琴の感情もお見通しの様で、シスターは少し困ったような微笑みを見せた。
「今まで、ありがとうございました」
そんなシスターの表情を見ていたくなくて、深々と頭を下げる。
その様子に傍にいたりさはきょとんと水琴を見上げていた。
「お姉ちゃん、どっかに行っちゃうの?」
「…うん、そうだよ。でもまた遊びに来るからね」
「どうして?なんで出て行っちゃうの?」
「今年で高校を卒業するから、ここを出なくちゃだめなんだ」
「えー、どうして?お部屋ならいっぱい余ってるじゃん。ね!シスター」
にこにことシスターを見上げるが、シスターは困った顔。
水琴もどう説明しようか悩み口をつぐんでしまった。
「あ!もしかして、『初恋の人』がきたの?!」
「へっ?!」
突然現れた単語に思わず素っ頓狂な声が出る。そんな水琴に構わずりさは目をキラキラさせて見上げていた。
ってか初恋の人って!!いつの間に広まったんだその話!!