第41章 誓い
それは宴の最中のこと。
いつも子どもたちには穏やかな白ひげが、珍しく低く唸るような声で諌めたのが始まりだった。
なんとなしに振った話題に思いがけず返ってきた言葉と眼差しに一瞬水琴は動きを止める。
「嫁入り前の女が刺青なんぞ彫るもんじゃねェ」
「……で、でも。今どきはオシャレでタトゥーを入れる人もいるし、ワンポイントみたいな感じで入れるなら、別に変じゃないと思うけど」
「刺青は刺青だ。刻むには覚悟がいる。それが分からねェうちは不用意に口にするな」
「___なにそれ、私には覚悟がないって言いたいの?」
「子どもみてェなこと言ってんじゃねェ。この話は終いだ」
「…………」
「ほ、ほら水琴!これ美味いぞ、お前も飲んでみろよ、な!」
「こっちのつまみも美味いぞ~!あ、菓子もあるぞ!水琴甘いの好きだろ?!」
これ以上は受け付けないと杯を傾ける白ひげに黙り込む水琴。
気まずい沈黙を破ったのはその様子を固唾を飲んで見守っていたクルーたちだった。
子どもの機嫌を取るように、末妹にあれやこれやと飲み物や食べ物を勧める。
むっつりとしていた水琴は目の前に差し出された飲み物をそっと取った。瓶のまま渡されたそれを水琴は口につけくっと煽る。
ごっごっごっごっごっ
まるで水でも飲んでいるかのように臓腑へ収めていく様子を唖然と見守る。
一息に飲み干した水琴は空になった瓶をガンッ!と床に叩きつけた。
「__ごちそうさま」
あ、怒ってんなこれ。
全員の心の声が揃っていることなど知らない水琴は据わった目でそう低く呟くと甲板を立ち去ろうと腰を上げる。
「お、おい。どこ行くんだ…?」
「もう休む!」
船内へと通じるドアが音を立てて閉まる。
息を詰めていたクルーたちはそろって大きくため息をついた。