第40章 風の呼ぶ声
「水琴は風をどの程度操れるんだ?」
「狙いを定めるなら10メートルくらい、あとは大きな風を生んだり小さいものを風で浮かせたり自分が風になって飛んだり……」
「形質を変えるのは?鋭い風の刃を作るとか」
「出来るけど……あまり好きじゃない、かな」
困ったように笑う。この能力を使いこなせるようになりたいと思ってはいるが、積極的に何かを傷つけたいわけじゃない。
水琴の曖昧な反応にベイは特に踏み込むでもなくそうかい、と相槌を打つにとどめる。
「だが形質の変化は重要だよ。戦略の幅も広がるしね」
「__思ってたんだけど、ベイってカゼカゼの実に詳しいんだね」
昨日から思っていたことを熟考せず口にする。
水琴の言葉にベイは少し黙り、お茶を一口含んだ。
「昔、友人がその実の能力者だったんだ」
「え……」
「違う海賊船のクルーだったが、不思議と気が合ってね。おやっさんとその船の船長がまぁ仲が良い方だったから、よく交流をしていた」
手元のカップに注がれた眼はどこか遠い過去を映しているように見えた。
「……ごめんなさい」
配慮が足らなかったと水琴は口を噤む。
悪魔の実は世界でただ一つ。
同じ時代に同じ能力者は存在しない。
今水琴がカゼカゼの実の能力者であるということは、つまり、その友人は。
「謝ることじゃない。もう二十年程前の話さ」
水琴の失言を特に気にすることも無くさらりとベイは流す。