第40章 風の呼ぶ声
「見た目はご令嬢か、南国の姫君かっていうような可憐さだったが、中身は結構大胆でね。その肝の太さが気に入って声を掛け合うようになったんだ」
気にしていないことを示すためか、ベイはそのままその友人について語る。
柔らかな表情に、ベイが本当にその友人を大切に思っていたことが窺えた。
「あの子も能力者としては優秀でね。よく言っていたよ。”風の声が聞こえる”って」
__今日はちょっと機嫌が良くないみたい。嵐が来るかもね。
「風を友人みたいに扱っていた。まぁあの子にとってはそうだったんだろうね」
海賊になる前、自由に行動できるのは敷地内だけだった。
窓を開け、吹く風の匂いに、その温度に、この世界の先には何があるんだろうと想いを馳せて。
それは海賊になってからも変わらず。
「あの子にとって、風は自身の目であり、耳であり、導《しるべ》だったんだ」
「……その、友人の方はどうして……」
亡くなったのか、と直接尋ねるのがはばかれて濁した物言いになってしまう。
けれどベイはその語末を正確に読み取ったようだった。
「__繋ぐために」
ポツリと零れた答えはとても抽象的だった。
「直接聞いたわけじゃない。けど、きっとそうだったんだと思うよ」
守りたいものを守るために。
自身の決意を貫くために。
「__守るために、死を選んだ?」
「ちょっと違うな。自身よりも優先するものがあっただけさ」
死を選びたかったわけじゃない。
けれど、何よりも優先すべきものが他にあったのだとベイは語った。
自分にそんな決断が出来るだろうか。
もしも大切な誰かを守るために、自分は死ななければならなかったとして。
躊躇なく、この身を差し出す決意をすることが出来るだろうか。
__それとも、それくらいの覚悟がなければ、あの高みには辿り着けない?