第39章 力の重さ
ゆらゆらと身体が揺れる。
じんわりと優しい温もりに無意識に擦り寄り縋り付く。
まだ学校に上がる前、遊び疲れて眠ってしまった水琴を背に乗せ、布団まで運んでくれたシスターを思い出す。
あの頃とは違う逞しい腕と海の香りに水琴はそっと目を開いた。
「起きたか?」
「__エース?」
「使いが来て驚いたぜ。疲れたんだな、全然起きねェから悪ィけど背負ってきた」
「えっあ、ごめん!降りるよ」
そこでようやく水琴はエースに背負われていたことに気付き慌てて身体を起こす。
降りようとするがいいから寝とけ、と当人に言われれば無理矢理降りることも出来ない。
素直に甘え、水琴は再度エースの背中にもたれかかった。
「話聞いた。頑張ったな」
「……うん」
「言ったろ?大丈夫だって」
「うん……」
静かなエースの声が響く。
不思議と気持ちは穏やかだった。
嵐の後には虹がかかるように。
荒れ狂う波間の先には凪いだ海があるように。
水琴の心の中で渦巻いていた感情は静かに降り積もり層となり、澄んだ表層に現れたのは濁って分からなかった想いが一つ。
「エース、私頑張るよ」
まだ、ようやく一歩踏み出せただけだ。
想いを実現するためには、まだまだ私は弱い。
「力に負けないように、強くなる」
守りたいものを守れるように。
力を正しく使えるように。
__己が望む場所に、辿り着くために
「__おう」
エースの表情は見えない。
けれど、笑ってくれている気がした。
「お前なら出来るよ」
「待っててくれる?」
「待つさ。待つのは得意だ」
エースの背は暖かくて。
船までの道、水琴はじっと目を閉じていた。