第39章 力の重さ
視線の先には立派な大木がそびえ立っていた。
上段から下段へと突き出し生えている大木は長い年月をそこで過ごしていたのだろう。その幹は子供三人で両手を広げやっとというくらい太く、そこから空へ向かい伸びる枝もまたしっかりとしたものだった。
そんな木があれば子どもの格好の遊び場になるのは当然だ。登って遊んでいる子どもが葉の影から数人見えた。
その中の一人が目に入り水琴は息を呑む。
随分と細くなった枝の先に、子どもがしがみついていた。
枝は子どもの体重で大きくしなり、今にも折れそうだ。
落下すれば下段まで落ち、怪我では済まないだろう。
「危ない……っ」
慌てて水琴は一気に階段を駆け上がる。
息も絶え絶えに大木の下まで行けば騒ぎに気付いて集まってきたのだろう。複数の大人がどうにかして子どもを助けようと試行錯誤しているところだった。
「ロープは届かないか?」
「駄目だ、距離がありすぎる」
投げ渡そうとしてもしがみつくのが精一杯の子どもに受け取れというのも無茶な話で、ロープを渡すのは難しそうだった。
直接助けに行こうにも子どものいる枝先は細く、あと少しでも体重がかかれば折れてしまうだろう。
下段では落ちた時に備え落下の衝撃を和らげるものを用意し始めているが、果たして上手くいくかどうか。
「あの、私……」
私ならば風を使い安全に助けられる。
そう言おうとしてはっと口を閉ざした。
助けられる?本当に?
__失敗するかもしれないのに?
視界を赤が染める。
差し出そうとした手が震え、力なく垂れた。
心配そうに見守る人混みに紛れ俯く水琴の声は誰にも届かなかったらしい。
大人たちは口々にもう少し待て、しっかりしろ、と恐怖に耐える子どもに言葉を投げかけていた。
__このまま黙って、見ていていいのだろうか。
__でももし出しゃばって、上手くいかなかったら。
……また、傷つけてしまったら?