第39章 力の重さ
「どうしたのイゾウ」
「__なんかいやがるなァ」
愛用の銃を構えイゾウが森の奥を睨む。
一方でハルタは楽しくなってきたと言わんばかりに舌なめずりをした。
「狙われてるねぇ。水琴が美味しそうに見えたのかな?」
「ちょ、不吉なこと言わないでよ…!」
ギャアギャアと何かの鳥の鳴き声が響く。
風が木々を揺らす音がやけに大きく聞こえた。
「そういえば、さっき村長が森には主がいるから気をつけろって……」
だけどそれは森の奥の話で、集落の近くには現れないという話だった。
まさか、そんな、今日に限ってまるで漫画みたいなこと……
視界を遮っていた木々が横からなぎ払われ半分の背丈になった。
ギラギラと長く鋭い爪はまるで研がれた大剣のよう。
分厚い脂肪と筋肉に包まれた体躯はごわごわとした剛毛に覆われていた。
黄色く濁った眼が水琴たちを捉え、獲物を見つけた喜びの咆哮を上げる。
その声量は凄まじく、振動でビリビリと体が震えた。
森の主・ドゥカテ
さながらハリウッド映画に出てくる大猿をより凶暴化したような見た目は水琴の度肝を抜くには十分だった。
臆する水琴と違い姿を認めた途端走り出したのはハルタ。
抜いた剣を構え、振り抜きながら足元を駆け抜ける。
大きく抉られた足の痛みで体制を崩したドゥカテを狙うのは冷たく光る銃口。
一発に聞こえるほど素早く弾き出された弾丸はその眉間を貫いた。
光を失い、巨体が崩れる。
「……え、はや」
森の主との戦闘は拍子抜けするほどあっけなく終わってしまった。
しかし考えてみれば彼らも白ひげ海賊団の隊長を任せられる二人。
あまり戦闘場面を見た事はなかったが、弱いわけが無い。