第38章 特訓!カゼカゼの実
「お前はあれをどうしたい?」
指さす先にあるのは並んでいる空き瓶たち。
「大事なのは結果のイメージだ。距離は、角度はなんて気にする必要ねェ。
対象に集中しろ。そうすりゃあとは勝手に身体が反応してくれる」
お前自身が風なんだから。
軽く背を押され一歩踏み出す。
目の前には等間隔に並んだ空き瓶。
恐る恐るエースを見れば、やってみろと言うように頷かれた。
手を見つめる。
___結果のイメージ。
そういえば、水琴が初めて空を飛んだ時考えていたのはただ“飛びたい”ということだけだった。
半分風になって、とか風で身体を浮かせて、とか難しいことは一つも必要なかった。
風になる感覚だってそうだ。実を食べた直後水琴は誰に教わるでもなく風になった。
その時の風となる感覚を説明しろといわれても分からない。
きっと、そういうことなのだ。
イメージするのは鋭い一本の矢。
歪みのないまっすぐなそれを鮮明に描く。
そしてその矢が空き瓶の中心を貫くことをひたすらイメージした。
静かに息を吸い
水琴はただ願った。
___カンッ!!
弾けるように一つの空き瓶が飛ぶ。
それは水琴が狙っていたものだった。慌てて駆け寄り確かめてみれば、瓶の中心には歪んだ円状に亀裂が入っていた。
「できた……」
初めての成功に信じられないと口を開ける。
「できた!エース、できた!!」
沸々と湧き上がる喜びに水琴は満面の笑みでエースを振り返る。
「お、やったな」
「初めてだよ!エースありがとう!」
「これでマルコにも教え下手なんて言わせねェだろ」
素直に感謝すればエースはそう言い胸を張った。どうやらマルコに何か言われたようだ。
確かに酷かったもんね…と言われる前のエースの助言を思い返し苦笑いを浮かべる。
「あとは反復してりゃもっと精度も上がるだろ」
「うん。ありがとう!ちょっとやる気出てきた!」
さぁやるぞ、と感覚を忘れる前にもう一度空き瓶へと対峙する。
通路にはしばらく空き瓶の弾ける澄んだ音が響いていた。