第38章 特訓!カゼカゼの実
「おーおー、派手にやったなァ」
物陰から顔だけ覗かせ、サッチは悲鳴の発生源を見た。
散乱したシーツや洗濯物の間に宵闇が埋もれている。
「サッチ……」
「今度は何に驚いたんだ?」
水琴は立ち上がりながら蜘蛛が…と小さく呟いた。
どうやら洗濯物を干していた際に紛れ込んでいた蜘蛛が突然飛び出してきたらしい。
水琴は周囲を見渡すと肩を落とした。
「あぁもうまた洗い直し…」
「操るのはうまいのにな」
「驚くたびに暴走させてたら何もできないよ」
カゼカゼの実を口にしてから二週間。
もともと素質があったのか、風の操り方は早いうちから会得していた水琴だったが完全に制御下におけるかと言えばそうではなく、ふとした瞬間…特に不意の事態に驚いた際に風を暴走させることがよく見られた。
最初こそ突然現れる突風にクルーたちも驚いたが、今ではそれが日常となってしまうくらい頻繁であることに水琴は危機意識を持ち始める。
「どうやったら抑えられるかなぁ」
「つっても俺は能力者じゃないから何ともなァ。あ、エースに聞いてみたらどうだ?
あいつも自然系の能力者だから参考になるんじゃないか?」
「もう聞いた」
なんだって?と尋ねるサッチに水琴は憮然とした表情を作る。
「“なんかこう、腹にぐーっと押し付ける感じ”だって」
「なんだそりゃ」
「分かれば苦労しないよ…」
溜息の重さにここ二週間の苦労が伺える。
「…ま、頑張れ」
昼食にデザートでもサービスしてやることにしよう。