第38章 特訓!カゼカゼの実
秋という季節は過ごしやすいイメージとは裏腹に、意外と寒暖の差が激しい。
茹だるような暑さで寝苦しいかと思えば、早朝寒さに凍え目を覚ますなどざらであり、秋雨前線による天気の急変に晒されながらようやく秋らしい日が続くと思えば、もう冬になっていたりする。
しかし秋島の秋はまさしく秋だった。
穏やかな秋晴れ。日差しでじんわりと温まる身体を涼やかな風が冷ます。
それは海の上でも例外ではなく、秋島の海域を通るモビーディックの上にも秋が訪れていた。
年に数日遭遇するかどうかという秋の恵みを享受しようと、仕事のないクルーが甲板に出てくつろぐ。
過ごし方は人それぞれで、軽い組み手をする者や昼寝をする者、おしゃべりに興じる者などで甲板は賑わっていた。
「きゃぁぁあああ!!!」
そんな平和な時を甲高い悲鳴が引き裂いた。
同時に発生する上空へ立ち上る巨大な風のうねりにクルーたちは皆一様にまたかと息を吐く。
視線を向けたのは数秒で、風が収まる前に皆それぞれの時間へと戻っていった。
モビーディックは今日も平和である。