第37章 空と海の境界で風は踊る
「……は?」
「ひゃっほう!」
風に誘われるように上を見上げれば、先ほど落ちたはずの水琴が空へと舞っている。
「見て見てエース!すごくない?!」
普段からこっそり練習していたんだろう。得意げに空中で回転し、エースを見下ろす。
その身体は薄らと透け、周囲は柔らかな風が舞っている。
「ほぉ、これは見事なもんだよい」
呆然と声をかけることができないエースに代わり、船内から出てきたマルコが水琴に気付き見上げる。
「ギリギリの状態で実体化して浮いてんのか。カゼカゼの実を食って数日とは思えねえな」
「あれー、水琴ちゃん大分うまいねぇ。お前よりセンスあるんじゃねぇの、エース」
同じく甲板で暇を潰していたサッチがエースを小突く。その声はなんだか楽しそうだ。
「ねぇすごくない?空を飛ぶなんてライト兄弟、ううんレオナルドダヴィンチの頃からの人類の夢だよ!なのに実の能力でこんなにあっさり、しかも生身の人間が空を飛ぶなんてすごすぎる!グランドライン万歳!」
下りてきた水琴がエースに駆け寄り興奮したまま捲し立てる。時折分からない単語が出たが、そんなこと特に気にすることではない。
「これなら上陸する時も楽だと思わない?もう縄梯子出してもらわなくても…」
「っ、く…ぶはっ!」
「???」
突如噴き出したエースに水琴は目を白黒とさせる。
「え、なに?なんか変なこと言った?」
なかなか笑いが収まらないエースにおろおろする水琴。
「いやァ、ほんと逞しいなお前…」
そうだ。こいつはこういう奴だ。
失った物をいつまでも嘆かない。
どんな小さなことにも“意味”を見出し、プラスに変えちまう奴。
悪魔の実なんかじゃねェ、こいつの一番強い能力。