第37章 空と海の境界で風は踊る
あの事件から数日後。
モビーディック号は再び小さな島に立ち寄っていた。
いつものように必要な物を調達し、荷物のチェックを済ませるとクルーたちは思い思いに久しぶりの陸を楽しんでいる。
あの日と違うのは、水琴とエースが砂浜ではなく甲板に並んでいることくらいだった。
水琴の視線は浅瀬で騒いでいる数人のクルーに向けられている。
それに気付いて、エースはどうしても罪悪感を覚える。
「……泳ぎたいよな、やっぱ」
「そりゃね。でも、実を食べたのは覚悟の上だから。いいの別に」
すっと浅瀬から目を離し、隣のエースに目を向けるとへらりと笑う。
そう言われても、エースとしてはすっきりしない。
あれだけ楽しそうに毎回泳いでいたのを知っているのだから猶更だ。
落ち込んできたエースとは裏腹に、「それに、」と楽しそうに水琴は続ける。
「確かに海は泳げなくなったけど、もっと素敵なこともできるようになったし」
「…素敵なこと?」
首を傾げれば水琴は得意げに胸を張る。
「見ててよ」
寄り掛かっていた手摺から身体を放しエースに意味ありげな視線を向けると、手摺の上に勢いをつけ飛び乗る。そのままくるりと反転すると水琴は後ろへ倒れこんでいった。
そう、海の方へ。
「ばっ……!」
このまま落ちれば海に叩きつけられる。うまく落ちたとしても溺れ死ぬ。
咄嗟に飛び降りた水琴を追うように手摺に足を掛け飛び込もうとする。
そんなエースの横を、風が通った。