第37章 空と海の境界で風は踊る
こっちは真剣なのに!と文句を言ってやろうとそっちを見れば、いつものエースらしくない様子でじっと俯いていた。
顔は腕に隠れて見えない。
「……無事で良かった」
まるで、迷子になった子どものような声で小さくごめん、と呟く。
「エース……?」
「ごめん…水琴、ごめん……」
何に対して謝っているのか、全く見当がつかない。ただひたすらごめんと繰り返すエースを見ていたくなくて、水琴は身体を起こした。
「エース、一体何を謝ってるの」
「………」
顔は上げないまま、エースは少しの沈黙の後答える。
「おれが油断さえしなけりゃ、あんな危険に遭うことも、傷つくことも。
……悪魔の実を食べることも、なかったんだ……」
悪魔の実を口にした者は、海に嫌われる。
それはつまり、もう二度とあの綺麗な世界を味わうことは出来ないと同義だった。
ごめん、と再び繰り返される謝罪に水琴はようやく合点がいく。
そして、だからこそ、水琴は躊躇なく拳をエースの頭に振り下ろした。
がっっ!!
結構いい音を立ててエースの頭が揺れる。「痛ってぇ!!」と本気で痛がりエースがようやく顔を上げた。
「ちょ、なんで殴れるんだよ!」
「知らないよ!!」
殴ってしまった自分もびっくりだ。どうせすり抜けると思って思い切り殴ったのでこっちの手もじんじんする。
「大体!エースが悪いんでしょ!!」
水琴の言葉にぐっと詰まるエース。ごめん、と謝っていたのだから糾弾されるのは当然だが、真正面からそう言われるのは堪えるのだろう。
しかし、私が怒っている原因はエースが考えているものとは全く違う。