第37章 空と海の境界で風は踊る
目が覚めれば、消毒液の香りが鼻に着いた。
見慣れた天井と白いカーテンに、医務室に運ばれたのだったと思い出す。
まだ少し痛む腕を上げ、汗ばんだ前髪をかき上げようとした時、左手が何かに包まれている感触に気付く。
不思議に思って視線を動かすと、そこには同じようにぼろぼろなエースがベッドにもたれかかるように眠っていた。一瞬驚き、規則正しい呼吸に安堵の息を吐く。
「……エース」
もしかして、ずっと付き添ってくれていたのだろうか。
窓から見える日差しの角度から、あれから結構な時間が経っている。
痛々しく巻かれた包帯にそっと触れる。エースの方がずっと傷ついているはずなのに、なんで彼はこんなに優しいのだろうと泣きたくなる。
「ん……?」
起こしてしまっただろうか。小さく身じろきし、エースは薄らと目を開けた。その目が水琴を捉える。
「っ、水琴!」
「おはよう、エース」
がばり!と勢いよく起き上がるエースに「お互いぼろぼろだねー」とへらりと笑いかける。
「っ何がおはようだよ、馬鹿…」
水琴の笑顔に気が抜けたのか、再び静かに腰を下ろす。
大きく溜息を吐いたので「幸せ逃げるよー」と言うとばちんとデコピンをされた。地味に痛い。
ってなんで私デコピンくらってるんだろう。これくらいの衝撃は打撃にカウントされないってことか。
ベッドに沈み込んだままおでこの痛みに悶えていると、エースが再び溜息を吐く。