第37章 空と海の境界で風は踊る
それから。
二人はモビーへと戻ってすぐに船医に医務室に押し込まれ、治療を受けた。
「………」
死んだように眠る水琴のベッドの脇に包帯を巻いたエースが座っている。
本来なら、エースもベッドに入るよう船医にきつく言われたのだが、頑として首を振らなかった。
「水琴が起きるまでここにいる」
その口調から言っても無駄だと悟ったドクは「何かあれば呼びなさい」と言い残し出て行った。
後には二人だけが残される。
「水琴……」
水琴の手首には縛られた痕と縄を解くときに傷つけたような痕が痛々しく残っている。
頬は殴られたのだろうか。手足には擦り傷や打撲が目立つ。
こんなに傷つきぼろぼろの姿で、エースを庇うために船長へと立ち向かった水琴。
「馬鹿だろ、ほんと……」
それを、不覚にも嬉しいと感じてしまう自分がいる。
そしてそんな自分を殺してしまいたくなる自分も、いる。
「早く、起きろよ……」
罵倒でもいい。罵りでもいい。
ただ、水琴の声が聞きたかった。