第36章 炎より風は生ず
「この俺の計画をぶち壊してくれやがって……」
向けられた殺気とすらりと抜かれぎらぎらと光る刀剣に水琴の身体が一瞬強張る。
しかし次にはエースを庇うように船長へと立ち塞がった。
「あなたの計画なんて知らない。エースも、白ひげのクルーも、誰も傷つけさせない」
きっと船長を睨む。
「は、能力者になっただけでえらく強気じゃねぇか。今お前らは水の中なんだぜ?そんなんで俺に敵うと思ってるのか」
「能力なんて、関係ない」
きっぱりと水琴が口にする。
「確かに私は弱い。力もない。体力もない。痛いのにも弱い。
でも、今私はここにいる。
…弱くても、ここにいるのを許してくれる仲間がいる。
なら私は逃げない。今ここで逃げたら、仲間が許しても、私が私自身を、許せない」
庇われたエースからは見えないが、その目には強い光があった。
「私は、力には屈しない」
昔のエースと同じ、仲間を守る強い光が。
「…茶番はいい。仲良く死ねや」
船長の無慈悲な刃が水琴に振り下ろされる。
瞬間、青い炎が二人の間に燃え上がった。
その炎は段々と人の姿を作る。
「……よく言ったよい、水琴」
気力だけで立っていた水琴を支えるように姿を現したのは、白ひげ海賊団一番隊隊長。
「…マルコ……」
「頑張ったなぁ水琴。エース」
マルコがエースの縄を切るのと同時に男たちの喚声が響き渡った。
見れば、続々と白ひげのクルーが現れ海賊団へと攻撃を開始している。
「あとは俺たちに任せろい。ゆっくり寝てな」
「あァ、そうさせてもらうぜ」
ようやく自由になった身体を何とか動かし、マルコの代わりに水琴を支える。
見れば彼女も随分と疲労がたまっているようで、岸に上がればすぐにぺたんと腰を下ろしてしまった。
「さぁて野郎ども。末っ子たちを可愛がってもらった礼だ。丁重にもてなしてやれよい!!」
海賊団が船員一人残らず駆逐されるのはあっという間だった。