第36章 炎より風は生ず
頬に落ちる冷たい感触で、エースは目を覚ました。
身体に力が入らない。その原因はすぐに分かった。
冷たい地底湖の一角。
胸までを水に浸かった状態でエースは拘束されていた。
すでに下半身の感覚はない。
こりゃやべぇな、と血が抜け朦朧とする意識の中どこか他人事のように感じていた。
…あぁ、水琴は無事だろうか。
意識が途切れる直前に見た水琴が脳内に浮かび上がる。
自分が油断したばっかりに、怖い目に合わせちまって悪かったな。
「よぉ火拳。湯加減はどうだ」
俯いた視界に影がさした。のろのろと顔を上げれば先ほどの船長が余裕の表情でエースを見下ろしている。
「……最高だな」
「なぁに、直にそんなこと言ってられなくなる」
ククッ、とエースの皮肉に口の端を上げる。それはすでに勝利を確信している者の表情だった。
「油断してると、すぐに親父に返り討ちにされるぜ?」
「あんな時代錯誤の奴ら、悪魔の実の能力ですぐに仕留めてやるさ。あぁ、お前の首も揃えてやるから安心しろよ」
手に入れた悪魔の実の能力によほど自信があるのか、それともただの馬鹿か。
もうすぐ手に入る未知の能力に気持ちが高ぶっているのだろう。その目には一種の狂気の光が宿っていた。