第35章 悪魔の実
「……いい女だな、やっぱ」
このまま殺すのは持ったいねぇと呟く声に、ぞくりと鳥肌が立つ。
「おい」
もう一人いた男に声を掛ける。男は黙って扉に鍵を掛けた。
「ちょ、何を……!」
「黙ってろよ。どうせ殺すなら一回くれぇいいだろ」
にやにやと、薄気味悪く笑いながら手が身体を這う。
「触らないで!!!」
あまりの不快感に足を振り上げるが易々と掴まれ、引き倒される。
倒れ込んだ水琴の身体に男たちの手が伸びた。
いやだ。
いやだいやだいやだ!!!
助けてエース!!
思わず浮かんだ言葉に、水琴ははっと気付く。
まただ。
いつも、何かあればエースを頼ってしまう。
でも、今彼は囚われの身。このままでは、確実に殺されてしまう。
___助けを待っているだけじゃ、だめだ。
私が、動かないと。
そう思った瞬間、水琴はずっと持っていたあるものを思い切り振り上げ、男の手に突き刺した。
「ぎゃああぁぁぁぁぁあああ!!!」
ものすごい声と、肉を抉る気持ちの悪い感触が水琴を襲う。
のけぞった男の下から身体をひねり抜け出し、水琴は血まみれのガラスのかけらを捨て去ると転がっていた木箱へ飛びついた。
手が触れた途端、後ろからの衝撃で箱ごと吹き飛ぶ。
「かっ…は…!」
衝撃で息が一瞬止まり、ごほごほとむせる。ようやくの思いで顔を上げると、怒りで濡れた目でこちらを見下ろす二人の男。
「てめぇ…今ここでぶっ殺してやる!!!」
そして向けられる銃口。
うまく動かない身体を必死に動かす。まだだ。諦めるな。
限界まで手を伸ばし、水琴は衝撃で開かれた木箱へ触れた。
指先に力を入れ、ぐっと引き寄せる。
「死ねぇ!!!」
男の声と、銃声と、同時。
水琴は最後の力を振り絞って、それを口にした。
___悪魔の実を。